2018年08月

  人の死に関わることを避けたいという気持ちは、人間としてごく自然なもので、普遍不易の感情です。実際にも、人の死に関わる施設(墓地、葬儀施設等)をわざわざ用もないのに訪れ、ましてやあえてその近所に住もうと思う人は、ほとんどいないでしょう。
 
 それでは、今まさに住んでいる家の近隣に、新たに葬儀施設ができた上、日々遺体が安置され葬儀が行われるようになった場合に、常に人の死を意識して生活せざるを得なくなった住民としては、施設側に対しどのような法的手段をとることができるでしょうか。

 最も単純かつ直接的な手段としては、訴訟(又は保全手続)で、住民の人格権に基づき、葬儀施設の営業の差止めを求めることが考えられます。

 しかし、残念ながら、住宅地での葬儀施設営業に対する法的規制は、都市計画法上の用途地域による制限など以外は見当たらず、地方公共団体の条例等による対応も未だ不十分といわざるを得ません。

 そのため、基本的に、住宅地での葬儀施設営業が法律上禁止されているわけではありません。むしろ、憲法上保障されている営業の自由を根拠に、原則どこでも葬儀施設を営業することが認められているのが現状です。

 また、葬儀施設は通常誰しもがお世話になる施設ではありますし、近年高齢化社会により年々死亡者数が増えるにつれ、葬儀施設に対する需要が高まっているという事実もあります。そのため、国又は地方公共団体としては、規制を厳しくすることで、葬儀施設を営業する会社が減っては困るという事情もあるのでしょう。

 以上のことから、葬儀施設の営業自体を差し止めることは非常にハードルが高く、過去の裁判例でも葬儀施設の営業差止めが認められた事例は見当たりません。平成22年の判例ですが、営業差止めではなく、葬儀の様子が見えないよう施設側に目隠しの設置を求めたにすぎない事例でも、最高裁判所はこれを認めませんでした。

 前置きが長くなりましたが、このような背景がある中、当事務所が住民側の代理人として、人格権に基づき、ある葬儀施設に対する営業差止めの仮処分命令を申し立てたところ、神戸地方裁判所姫路支部の合議体で全部認容の決定がなされました。

 より事案につき具体的に述べますと、住んでいる家のまさに真横(壁と壁とが接着している隣の建物)で直葬施設の営業が開始されたことにより、人格権の一内容である平穏に生活する利益が侵害されているとして、住民側がその営業の差止めを求めた、というものです。

 直葬とは、通夜等の宗教儀式を行わず、火葬のみを行う葬儀の形態です。そして、上記直葬施設とは、火葬の前に遺体を安置する施設であり、そこで通夜等は行われないものの、遺族の方が喪服で来られることは度々ありました。

 また、営業開始までの経緯として、施設側が周辺住民に対し説明会等を行っておらず、営業が始まる寸前まで同所で遺体を安置する旨報告していないことに加え、住民が気づき説明を求めた後ですら、施設側から十分な説明、交渉が行われなかったという事情がありました。

 上記のとおり、営業自体の差止めというのは先例もなく非常にハードルが高いものではあります。

 しかし、遺体が安置されているすぐ横で、これまでと変わりなく日常生活を送ることができるかと問われれば、誰もが「できない」と答えるでしょう。

確かに死に対する考え方や感情は様々であるものの、人の死に対して恐れや恐怖感を持つこと、死者の祟りを恐れ、死者との関係を排除し、表には出さず、距離を置こうとする気持ちは、人間の根源的なものだと思います。

 直葬施設の隣で強制的に日々生活させられることで生じる苦痛が、単なる個人的な感情の問題にとどまらず、社会通念上受忍しえない不快感、嫌悪感と認め、仮処分ではあるものの営業差止めを認めた本決定は、法と常識に適った、正当な結論を導いたものだと思います。

 上記のとおり、葬儀施設(特に、直葬、家族葬等、簡易な形態の葬儀を行う施設)は今後増加する傾向にあり、そうだとすれば、本件と同様の事態が各地で起こる可能性は大きいでしょう。

 同様のトラブルに直面した際には、本件が参考になると思いますので、是非当事務所までご相談ください。
 

 夫婦が別居中、妻と同居中の子供を、夫が連れ去った場合に、どうやって「子の引渡し」を実現するかという問題です。

 夫婦が離婚しており、既にどちらかが親権者と決まっていれば親権に基づいて引き渡し請求が可能です。

  婚姻中で別居しているだけであれば、どちらかの親権が優先するわけではないので、当然には引渡し請求ができません。

 勿論、連れ去りの場合に、暴行・脅迫・住居侵入罪などが成立する場合には比較的簡単に引渡しが実現できるでしょうが、そうでない場合には簡単ではありません。

 本件では、夫が妻に生活費を渡すために、妻が仕事で不在中(祖母と子供2歳がいた)、別居中の妻の実家に行き、抱きついてきた子供を連れて帰ったという事案です。生活費を持って行くということは、妻に連絡していたようです。

  以前は、人身保護法に基づく人身保護請求をするという風にいわれていましたが、実際には、私はやったことはありません。姫路の裁判所でも年間1件あるかないかという状況だったようです。

   今回、平成25年に施行された家事事件手続法に基づき、審判前の保全処分(子の引渡し)を使いました。

  ①子の監護者指定
  ②子の引渡し審判申立
  ③審判前の保全処分(子の引渡し)の3つを同時に申立てをしました。

 (④仮りの監護者指定の審判申立もあったのですが、そこまですると余分な時間がかかることを心配しました)

 申立から約2ヶ月で「相手方は、申立人に対し、本案の審判確定に至るまで、未成年者を仮に引き渡せ」との審判を得ました。

 保全処分でなければ半年から1年かかったと思います。

 ここで感心したのは、相手方の弁護士が、「連れ去りではない。ただの引渡し請求の事案だ」と主張したことです。

 そうなると、いずれが勝つか不明ですが、こちらは、「子の連れ去り」を強く主張して裁判所が認めてくれました。

  保全処分は2週間経ってしまえば執行することができなくなってしまうので、準備万端でしたが、相手が任意に引き渡してくれました。

  裁判所が、日数をかけ、相手方を説得してくれたことが功を奏したと思います。約2ヶ月かかったのも無駄ではなかったということです。

   いつもよくあるという事案ではなかったのですが、会心の結果でした。

 平成9年にできた諫早湾の水門について、これを開けるか、開けないかと、平成14年からズーッと裁判が繰り返されてきました。

  その間に保全処分・保全異議・保全抗告・許可抗告・本案訴訟・控訴などの裁判手続それぞれを、何重にも繰り返して来たわけです。

  普通はこんな事を延々と続けていたら、依頼者にしかられてしまうのが落ちですが、さすがは国です。

 お金はいくらでもあるということでしょう。

 関係者のご苦労は想像を絶するものがありそうです。

 平成22年に、福岡高裁で、国と漁業者間で、開門を命ずる判決が確定しました。

 これで一段落と思いきやです。国と農業者との間で、これとは矛盾する別の裁判が確定しているので、それはそれでどうなるのかと思っていたら、今回の判決です。

 普通、メインが本案の裁判ですが緊急に対応するため、仮の処分を申し立てます。仮処分→本案訴訟と進めば、事件は解決ということです。

 国ですから、裁判所の判断は尊重して判決結果を履行して解決です。

  ところが、今回は、任意の履行を拒否した上で、事情が変わったから(判決は変わらないのですが)強制執行を認めないという理屈です。

 本案の裁判確定後に、その強制執行力を争うという、請求異議訴訟を起こして、国が漁業者に逆転勝訴したのです。こんな手もあるんですね。

 ところで、今回の裁判長は、実は20年前に姫路で裁判官をされており、そのとき、

 私が頂いた交通事故の損害賠償請求事件の判決が控訴審を経て、翌年、最高裁判所で高裁判決破棄の判決になりました。

 今では確定遅延損害金という立派な名前が付いています。

 簡単に言いますと、自賠責の被害者請求をしてその後、不足分を裁判で請求すると、判決では損害金の元金と遅延損害金がもらえますが、

 先にもらった被害者請求分については遅延損害金はもらえないままになってしまっていたのですが、上記最高裁判決は、損害金だけを取り出して請求できることを認めたものでした。

久しぶりに、裁判長のお名前を見て思い出しました。

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