2018年05月

  団塊の世代周辺の人たちの子供時代の人気漫画に鉄人28号というのがありました。今も神戸の長田駅近くに、鉄人28号のモニュメントがあります。

  空も飛べて最強のロボットですが、AIの機能はなく、操縦かんによって操縦されます。よい人に操縦されれば、人類の味方、救世主なのですが、悪い人に操縦かんを奪われ、操縦されますと最悪の事態になるのです。

  ただ、鉄人28号が悪い人に操縦され最悪の事態になっても、誰も鉄人28号を責めることはありません。操縦した悪い人が責められるだけです。

  今回、日大の監督・コーチが悪い人で、日大のDL(ディフェンスライン)の選手が鉄人28号なのです。

  監督・コーチは自分らが操縦していたとしても、何らかの誤作動があったのだと主張しています。しかし、たとえ誤作動があったとしても、鉄人28号に責任を押しつけることは出来ません。責任はあくまで、操縦した人にあるのです。

  今回、監督・コーチは「自分らの行為と選手の理解との間に乖離があった」と言っています。しかし、そのことは本当は問題ではないのです。

  乖離はある、だから、責任がないという趣旨の会見になったのが問題なのです。乖離はあるが、しかし、責任(道義的責任)は監督・コーチにあるといっていれば、炎上しなかったはずです。

  ただ、刑事責任については、乖離があれば責任(刑事責任)はないという主張は可能なので、先行して刑事責任まで認めたと、とられることをおそれたのかも知れません。

  道義的責任を認めておいて、刑事手続では刑事責任を否定すればよいだけのことです。

いやー、私が弁護士でついていていれば、もっと、ソフトランディングできたかも知れませんね。


 監督・コーチの指示に従った選手の傷害行為について、監督・コーチも傷害罪の責任を問うことができるというのが、共謀共同正犯の考えで、たとえば暴力団の組長と組員との関係などでしばしば認められます。


    要件はいくつかあるのですがその一つに、「共同意思の下に一体となって」実行犯が実行することが必要です。


   暴力団の組長が、「やれ」と言って(必ずしも言葉で言わなくてもいいのですが)、拳銃を渡せば認められやすい。


   拳銃で撃つ行為は最初から、相手を殺傷することを目的とした違法行為であり、「共同意思」は容易に認められます。


   しかし、QBにタックルする行為は、最初から違法というわけではありません。


   今回の事件においても、関学大のQBの選手がパスを投げ投げ終わった時点で、日大のDLの選手がすぐ間近に接近していて衝突を避けられないほどであれば反則にもならないはずです。


   そうでなければレイトタックルとなって反則になるのですが、間近に接近していて衝突を避けられないほどというのが評価の問題であって、レイトタックルかどうかについて監督・コーチ側に強弁する余地がでてきます。


   今回の反則タックルは、レイトタックルと言うよりは単なる傷害行為でしかないのであって、井上コーチも会見で、タックルの瞬間には衝撃を受けたという趣旨の発言をしていました。そこまでしたら駄目だろう、という気持ちがあってもおかしくありません。



 強くあたれ、多少のレイトタックルはかまわない、という指示があったとしても、今回の反則タックルは想定外だったという可能性はあり得ます。「乖離」という言葉はあり得ない話しではないように思います。


 今回の日大のDLの選手が関学大のQBの選手に対してしたタックルそのものは、傷害を与えることを目的とした反則タックルだったことは認められるでしょうが、監督コーチの指示はそこまでではなかった可能性もあるのではないかと思います。


 今年の甲子園ボールに向けて、関学大のQBの選手に傷害を与えることを目的とした反則タックルの指示をした可能性もあるのかも知れませんが、今年の甲子園ボールは先の話ですし、そもそも日大と関学大が対戦するかどうかも分かりません。


   DLの選手を鼓舞するために、強くあたれという指示があったとしてもおかしくありません。

   ただ、その結果、関学大のQBの選手が負傷したとしてもやむを得ないということであれば、未必の故意があることになって、監督・コーチの責任は否定できないのですが、情状はずいぶん違ってくるはずです。


 真相究明のためには、監督コーチの指示の主たる目的が①関学大のQBの選手に傷害を与えることか②日大のDLの選手を鼓舞することだったかを明らかにすることが肝ですが、

   日大側がその言い分を主張したいのであれば、本件反則タックルがあった試合日である5月6日の前の、日大のDLの選手が監督・コーチとって鼓舞する必要が強いと認識した状況やその結果、厳しく追い込んでしまった経緯を詳細にまた具体的に説明しなければ説得力がありません。


 今回の監督・コーチの記者会見が残念なものだったことは間違いありません。

  私たちが子供の頃の言葉に、「末は博士か大臣か」というのがありました。

  子供達の究極の夢をあらわす言葉だったように覚えています。

  今や日本は、総理大臣も大学も平気で嘘をつく、嘘つき大国になってしまったようです。

  隣国を見渡すと、日本が特別だというわけではないようですが、日本だけは正直大国であって欲しいと思ったのが、過去のことだとしか感じられません。

  また、世間には倫理観・道徳観が全く欠如していると思しき人も珍しくありません。

  むしろ、今の日本において、倫理観・道徳観というものが価値観として存在しているのか、はなはだ疑問だという方があたっているのかも知れません。

  弁護士になった当初、先輩から「弁護士は嘘をついたらあかんのやで」と言われて、何当たり前のことを言っているのかと思ったものですが、今や、嘘をつかないということが、希少でかつ重要な価値だと思い知らされます。

  嘘をつくということは、重大な反則なのですが、反則というものは適切に対処しなければ、強大な武器になってしまうものです。反則に対しては、厳正に対応して適切に処理しなければなりません。

反則タックル事件においても、警察の厳正な対応に期待します。




 日大から反則タックルを受けた関学大の被害選手側が大阪府警に被害届を出しました。

ここにきて被害届を出したということは、日大の内田正人監督のコメントに誠意がないと感じたからに外なりません。

 内田監督は、監督を辞任するようですが、それで終わりだと、加害者である監督が勝手に決めることは出来ません。

マスコミの取材に対して、「全て私の責任です」と答えたわけですから、刑事事件となれば刑事責任も受け入れるしかありません。

今回は、ルール違反の、故意による危険性の高い傷害行為ですから、被害者側が加害者に対する処罰を求めた場合には不起訴処分とすることはできないでしょう。

 内田監督が、「全て私の責任です」と答えたということは、何らかの指示があったと考えざるを得ません。ただ監督の刑事責任もさることながら、反則タックルをした選手も監督に指示されたからではすみません。同じく刑事罰は避けられないでしょう。

 ただ監督側の対応がここまで遅れたことについては、監督側にも想定外の思いがあったのではないかと思います。

世間からの批判の強さが想定外だっただけでなく、反則選手のタックルの反則があまりにも露骨だったことにも想定外だったのではないでしょうか。

 関学大のQBの選手がパスを投げ終わったときに、寸前まで接近していれば、避けられなかった衝突だと弁解できたのですが、10mも離れていてはただの傷害行為であってレイトタックルともいえません。

あるいは、これが監督の指示と選手の理解との「乖離」だったと言いたかったのかも知れません。


 競技中に犯罪行為をして刑事罰を受けた選手、その犯罪行為を指示して刑事罰を受けた監督が競技に復帰できるということは、非常に考えにくいと思います。

 対戦するチームの事を考えれば、今後の安全・安心が保証されるまで、日大アメフト部は無期限活動停止、被害者の心情を考えれば、監督選手は競技からの追放ということも考えられて然るべきだと思います。

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