裁判員裁判で、 「録音録画映像が有罪の決め手になった」という趣旨の裁判員のコメントがありました。

 本来、取調の録音録画は、自白調書を取るために過酷な取調がなされ、それが、えん罪の温床になったことの反省から導入されたもので、被疑者・被告人にとって有利なシステムだと思っていたのですが、それが有罪の決め手になってしまうということには非常に驚きました。

 検察の組織的戦略の勝利なのでしょう。

  新聞記事によりますと、被告人は、「午前の取調で殺害を認めたことについて検察官に聞かれると「覚えていません」と答えた」「検察官が「このずるい様子を被害者や遺族に見せてやりたい」と追及」などとありました。

 今回は、録音録画の一部開示ということで、実際の被告人の殺害を認めた供述部分を開示せずに、検察官の発言で、被告人が当初自白していたんだと言うことを、示しています。

 また、検察官は被疑者に脅迫や・利益誘導はしてはならないということになっていますが、脅迫や・利益誘導にならない範囲で、言葉巧みに被疑者の「このずるい様子」を裁判員に印象づけているのです。

  おそらく、検察庁内部の事前の検討で、「このずるい様子を被害者や遺族に見せてやりたい」という言葉が、裁判員の印象として、マイナスにならない範囲で最も効果的な言葉だという結論になったのでしょう。

 法廷でそのような発言をすれば、弁護人から侮辱的発言として異議が出ることは容易に予想されますが、取り調べでは弁護人は立会できませんので、異議を言われる心配は全くありません。

  検察は被疑者に対して取調をリードできる立場であって、非常に有利なのです。いくらでも、被疑者を悪役に印象づけることなど極めて簡単でしょう。

 今回のように決め手となる証拠のない事件で、録音録画を効果的に作っていけば、新たなえん罪の温床になりかねません。

 客観的な証拠のない事件を、録音録画の印象でもって、被告人を有罪とすることは、非常に危険です。